以前からウェブニュースで「高齢者が賃貸を借りることが難しい」というニュースを目にはしていたが、それはごく一部の人に起きていることだと思っていた。しかし、それは他人事ではないのだと最近になってやっと私も気が付いた。
海外赴任後の定年退職者
つい最近、定年を理由に長年の海外赴任を終え退職をしたという夫妻と出会った。彼らはまだ65歳位の健康的で元気な人達である。しかし、彼らが日本に帰国をして賃貸を探してみると、年齢による賃貸契約の問題に直面し、賃貸を見つけるのに苦労したのだと話してくれた。
確かに彼らは毎月給料という収入をもう得ることは無いが、この先の生活に金銭的な問題は全く抱えていない人達だ。そのうえ夫妻二人とも元気なのだ。それにも関わらず、彼らは私がネットで読んだ記事と同様に、いい物件を見つけても入居を断られ、家探しに苦労したというのである。
私が思っていた以上に「高齢者の賃貸が出来ない問題」は厳しいものらしい。健康な夫妻が揃っていて、同居でなくとも親を助けてくれる子供がいるケースでさえこの問題が発生することを知って、正直私は驚きを隠せない。
持ち家の処分
私が、この「高齢者の賃貸が出来ない問題」を他人事だと思えなくなった理由は、父親が亡くなり母親が一人で田舎の大きな家に住むようになったからだ。
私が高校に通っていた頃から10年程、我が家は東京都23区内に住んでいた。両親は定年を機に、田舎に憧れのマイホームを建てて移住していたが、母一人で住むにはその家は大きすぎるし、私を含む子供が近くに暮らしているわけでもないから、母親が都会に戻ってくればいいと思うようになったのだ。
都心に長く住んだことのある母親にとって、都心近郊で暮らすことは難しいことではないはずだ。この十数年の間に出来たご近所友人と離れるのは寂しいと思うが、母親は都会にも友人がいるし、子供家族も暮らしている。
それに、母親には車の運転も数年以内には止めて欲しい。そういうことを考えるとやっぱり母親には田舎暮らしを早々に卒業して首都圏近郊に移り住んで欲しいと子供一同思うようになった。
そうなると、母親が住む住宅が必要になる。都心まで普通列車で1時間以内の駅近の賃貸マンションが理想だ。だから、「高齢者の賃貸が出来ない問題」は、私にとってももう他人ごとではなくなってしまったということなのだ。
持ち家の苦労を取り除く
先日出会った海外赴任していた夫妻は、「高齢になってから不動産という資産を持ちたくない。」と言っていた。彼らの場合は、自分の親の遺産整理、特に不動産整理で相当苦労したらしく、その苦労を決して自分の子供にさせないのだと決意をしていた。
母親は、今のマイホームを売却したらもうマンションの1室でも購入はしなくていい言っている。母親は長年の賃貸生活を経験してから念願の新築マイホームに15年程住んでいた。
家を所有していると、一定のサイクルで住居設備等の修繕が必要になり大枚をはたき、職人さんを手配する苦労を体験する。それで、母親は今の家を売却したら新たに不動産は所有しなくていいという考えに至ったらしい。それは至極当然の考えだと私も思う。
両親の家は田舎とは言え、JRの駅から徒歩数分の場所にあり、建物も比較的綺麗だから処分に困るということは、少なくともこの数年は心配することは無いとは思う。それでも田舎の土地の価格下落と、家の老朽化による売却価格の下落を考えると、やはり早めの売却を考える必要がありそうだ。
シニアライフは賃貸で十分
都心まで普通列車で1時間でアクセスできる立地なら、500万位の中古マンションを見つけることは可能なようだ。両親宅を売却すれば、手頃な中古マンションを購入し暮らすことも可能だとは思う。しかし、買うとなると一軒家を持っていた時と変わらない修繕などの苦労がついてくる。
賃貸であれば、家の設備が自然故障した時に自分で修繕の手配や費用の心配をする必要はない。基本的に大家さんか不動産屋さんに連絡するだけでそれらは修繕してもらえるのだ。そういう修繕の手配の心配がないことは誰にとってもすごく魅力的なことである。
年老いてゆく母親にとってそういった仕事は絶対に人に任せたほうがいい。電話一本で住居に起こる不具合が解決されるなら、長い目で見ても損は無いように思える。
賃貸契約をして2年毎に賃貸の更新料と火災保険代金を支払わなくてはいけないにしても、不動産固定資産税の支払いや、自宅内外の設備補修の手配と費用、マンションであれば管理費と修繕積立の支払いなどを気にする必要がないのだから賃貸には十分魅力がある。
シニアライフは計画が難しい
子供のいる暮らしなら、子供の成長に合わせて考えれば20年位ならおおよその見通しがつく。しかし、シニアライフは小さな子供のいる家庭よりも先々を計画するのは難しい。
母親も今は健康でなんでも一人でできる生活を送っているが、ケガや病気を機にいつ一人暮らしが出来なくなるかわからない。私には105歳でも元気に一人暮らしをするお婆さんを持つ友人がいるが、それは本当に稀なケースだろう。
だから母親が新しい土地で一人暮らしを始めるにしても、正直何年そこに一人で暮らせるかは全く予想がつかないから、とりあえずこの先の10年位を目途に考えればいいと思っている。そう思うと、やはりシニアの住居には賃貸の方が合っていると思うのだ。
持ち家と賃貸の試算
500万の中古マンションを購入し10年住む場合と、6万円程の家賃を10年払う場合をざっと試算してみると、賃貸の方がお金は掛からない計算になる。20年住むなら結果はひっくり返ると思うが、15年位までなら賃貸の方が良さそうにみえる。
中古マンションを買う場合、物件が安くても購入時は不動産屋へ払う手数料に加え登記料も必要だ。それに入居時に家の修繕をする場合、壁紙の交換や設備の交換が必要になれば軽く100万は掛かるだろう。それに売却する時の苦労も買う時から考えなくてはならない。
そして保有したマンションには毎年固定資産税を払い、毎月修繕費と管理費で3万円近く支払い、加えて10~15年毎にガス器具の交換を想定すると費用面からしても中古マンション購入は魅力が半減するように思うのだ。
購入したマンションの管理組合が正常に機能していない場合には、大規模修繕が出来ないとか、管理人さんが来なくなるとか、不都合な事態に巻き込まれる恐れもある。そういうリスクを考えても、やはり歳を取ったら賃貸がいいと思う。
賃貸契約対策をする
いくら私が母親には今後住処をさがすなら賃貸がいいと同意しても、貸し手が同意しないことには賃貸は成立しない。我が家の場合だと、スムーズに賃貸契約を進めるためには、子供である私が母親と住む部屋を契約すれば良いと思うのだ。
私自身、1年の内の1か月はその部屋で暮らし、私の部屋を持てば、2人での居住という申告は嘘ではない。だから母親の賃貸探しが始まったら私がメインの賃貸契約者になって進めることで、我が家は「高齢者の賃貸が出来ない問題」を解決しようと考えている。
JKK(公社)賃貸とUR(公的)賃貸
母親が自分自身で賃貸契約を完結させる方法もないことはない。公社賃貸と言われるJKK若しくは、公的賃貸のURで賃貸契約をすればいいのだ。実際、先日出会った海外赴任していた夫妻もUR賃貸で契約し、ことなきを得たと言っていた。
しかし、調べてみると賃料の安い単身の部屋は需要が高いらしく、大型の部屋に比べると空室は殆どない。こういった首都圏内への通勤可能範囲にあるJKKやURの駅近物件で、母親が住む単身用部屋探しをするとなると少々長期戦になるだろう。
他にも公営賃貸の都営住宅、市営住宅、県営住宅ってのもあるが、こっちは低所得者向けの住宅ということで、色々条件があり入居も抽選で更に狭き門だ。利便性の良い物件に申し込むとなると間違いなく、入居は難しいだろう。そう考えると公営賃貸は現実的に無理目な選択な気がする。
都会はシニアライフ向け
私は田舎のシニアライフより、実は都会のシニアライフの方が高齢者は長く元気で暮らせるのではないかと思う。全ての人が都会のシニアライフを送れる環境にないとは分かってはいるが、私の母親は都会でシニアライフを送ることが可能なのだ。
都会ならば車の運転は必要がなく公共の交通機関が沢山あり、それを使うために沢山歩く。それがまた母親の健康を助けることになるだろう。新たな趣味も見つけやすいことは間違いない。それに病院に掛かるにしても沢山の病院選択肢があるのだ。
何か大きな病気をしても、それに対応してくれる病院が都会にはいくつもある。そして子供家族がもっと頻繁に母親の様子を伺いに行くことも容易になる。高齢者の都会暮らしには幾つものウィンウィンがあるように思う。
だから母親には一日も早く都会への引っ越し決意をして貰い、新たな人生の歩みを始めて欲しいと思うのである。